越後麻織.亀甲絣と夏の染め帯..、"涼感"と"上質な感じ"が漂って来ます。

越後麻織着物と手描き友禅染帯6月半ばを過ぎて、いつ雨が降り出すかもしれない時季ではありますが、もう暫くすると梅雨も明ける..、ひたすらに暑い日が続くことになる様ですが、夏の着物..、夏の和服姿は、時に、涼しげに映ることがあります。

Tシャツ、スリーブレスの洋服姿が、暑さを凌いでいる様に映るのに対して、ある夏の和服姿が、暑さを楽しんでいるかの様に映るのは..、風雅と言うのか、趣と言うのか、季節に抗う素振りのない装いだからなのかもしれません。

特に、手織の麻織物には..、夏季を楽しむ予感があるように感じられます。

今回の<着物と帯のあわせ>のCoceptは「夏季を楽しむ和服」として、お話をしたいと思います。

掲載をさせて頂いたお着物は、越後の機屋で制作された"きなり.亀甲絣"の手織麻織物..、この亀甲絣の手織麻織物は、そもそも、特に珍しい織物ではなくて、盛夏の趣味的なお着物としては、古典的な感じとなるかと思います。

ただ、この"亀甲絣"が織り込まれたお着物は、無地織に対して精緻な絣が整然と織り込まれているため、綺麗な仕事が施されてたお品でないと、何となく無機質的な感じに映ったり、また、雑な雰囲気が出ることもあります。

無地織の織物、亀甲絣や蚊絣の織物などは、無地感覚の織物である為なのでしょうか..、何が違うのか具体的な訳よりも先に、眼に映る感じとか印象によって、そのお着物の雰囲気に違いを憶えるんです。

こうした「眼に映る感じとか印象」なんですが..、これが、和服の趣味趣向に繋がって行くんですね。

こちらに掲載させて頂いた麻織物には、絣織は精巧に織り込まれ、手織特有の手仕事の綺麗さが感じられるんですが、それと同時に、越後上布などから感じられる"ちょっと枯れたような感じ"もある..、この「枯れたような感じ」の加減が、この織物の趣と言うか、表情となっているですね。
それが、この麻織物の感覚的な涼感に繋がっているのだと思います。

麻織物のお着物についてなんですが..、麻織物/絣織は、礼を想わせるお着物ではありません。この礼装感覚は、お召しになる方以外の誰かに配慮をした装いの感覚なんです。一方で、織物..、特に、盛夏の麻織物は、自身の楽しみのためのお着物なんですね。

皺になりやすいと言われる麻織物や街着感覚と言われる絣織..、これらも趣ある"かたち"で、上質感覚をもって装うことで、一般的に言われている以上の品格や雰囲気が出てくるんです。
もちろん、礼装にはならない..、所詮、自身の楽しみの装いでもあるんですが、他からみられても「いい感じ」に映るんです。
麻織物、絣織の着物と感じるより先に、「いい感じ」が伝わる..、そして、この「感じ」が涼感や趣にも繋がっている。


手描き友禅染め帯と越後麻織さて、この越後の麻織物にあわせたのは、手描き友禅の染め帯..、素材は薄絹の小千谷紬。

染め描かれているのは"団扇に夏草花"です。
この染め描かれた"画"なんですが、とても巧いし、綺麗な仕事が施されています。
藍一色で描き切っている..、それも、繊細な友禅です。
眼にしていても、薄絹の素材と相俟って"夏季ならではの涼感"が伝わって来る。

団扇の柄模様は、本来、砕けた感じがするものかもしれません..、けれども、やはり、ここにも涼感を伴った「いい感じ」があるんですね。

"カジュアル"なんて感じではないし、「麻織物に染帯」と言った"かたち"だけでまとめ上げた感じもない。

着物と帯の"質感覚"を"あわせ"てみました。
どちらも、言葉だけでは、マニュアル通りであれば"砕けた感じ"のアイテムかもしれません。でも、この装いには"いい感じ"を憶えても、"砕けた感じ"はないんですね。
綺麗な装いで、伝えたい印象や空気感が他からみてもよく伝わってくる筈です。涼感があるし、趣がある。

和服には、夏の暑さに抗うのではなくて、時季/気候に馴染む、そして、あえて楽しむ"姿"があるのです。

梅雨が明けると、盛夏を迎えます。
麻織物ならではの涼感と趣を楽しんでは如何でしょうか?

お単衣の愉しみ..、研鑚された美意識. 真栄城興茂/美絣と城間栄順/紅型"サバニ"

真栄城興茂+城間栄順ここ近年、5月末から6月初旬..、名古屋.東海地方ではこの時季から真夏日になる事が多いようです。
以前では、梅雨が終わると夏を迎える..、いまでは真夏の中に"梅雨"があると言う季節感覚になってしまっているようです。

着物の歳時記とあわせると5月/6月は単衣仕立ての時季とされています。

この度の<きものと帯の"あわせ">は、単衣のお着物を取り上げてみたいと思います。

掲載をさせて頂いているお着物は草木染め絹織物です。

駒糸と絹糸と言う質感の異なる織糸をバランス良く織り込むことで、お単衣のお着物としては理想的な素材感がつくられています。
湿度が上がり、体感温度も高く感じられる始める時季には、絶妙な素材感を憶えさえてくれます。

この素材感なんですが、単衣の着物に使われることがある生紬素材のような硬さはありません。

そもそも、駒糸なる織糸は、単衣織/夏織などの織物に使われる撚糸のひとつなんですが..、この織糸が使われると空気の通りが良くなるんですね。
しかし、ただ駒糸を使い織るだけは、ちょっした"ざら付いた感じ"が出てくる..、肌の触りがさらっとしていると表現すれば聞こえは良いかも知れませんが、着姿や着心地に満足できないこともあるんです。

この織物は、柔らかく、身体に馴染む感じがある。
薄くても..、僅かに透けていながらも、生地として、布としてしっかりとした質感をもっている。触れると..、他の織物と比べると誰でも実感できる程、素敵な素材感なんですね。

お単衣のお着物としてはこれ以上ないと言う質感を伝えてくれます。
これは、制作者が求めた"単衣の着物のため"の素材感覚なのです。

使われている駒糸はどこにでもある駒糸ではない..、制作者の意向でつくられた駒糸だけが使われているんです。
制作者独自の織糸だけが使われているからこそ、当然のように他にはない素材感が生まれるんです。

そして、この織物の魅力は、お単衣のお着物としての素材感だけではありません..、この柔らかい絹布に染められた琉球藍の彩りと織り込まれた絣の美しさは筆舌に尽くしがたいほど素晴らしい仕上がりをみせてくれています。

ただ藍が..、琉球藍が綺麗だけではないんですね。
駒糸と絹糸で織り出されたこの生地が、僅かに透ける..、光を通すのです。
織地と琉球藍が光を受けることで、色艶に移り変わりをもたらすんです。
そして、琉球藍の中に織り込まれた絣は、まるで夜空の星のような印象を憶えさせてくれます。
また、織り込まれた絣と縞を、しばらくの間、眼にしていると、リズムをともった音のような何かがが聞こえてきそうなのです。

絣織が..、縞織が..、洗練され尽くされるとこの様な美しさをもたらしてくれるんですね。

この織物の制作者は、染織家.真栄城興茂氏が手掛けた琉球美絣です。
真栄城興茂が制作する"絣織"は、先代真栄城興盛氏がつくり上げた"真栄城家の絣織"であり..、琉球の伝統的な絣織とは性格を異にした、絣織と草木染めを駆使した創作的な織物なのです。

美絣には、琉球染織の香りがありながらも、伝統を想わせる感じや土臭い印象がない..、繊細であり、創造的である、美意識を想わせるんです。

着物として、この藍の美絣は、もはや"絣織"とか"織物"と言う感じではなくて、もう"ひとつ""ふたつ"上の感じを持っているし、感じられるかと思います。

琉球美絣+本紅型帯は、城間栄順制作の琉球紅型..、"サバニ"と"波"と"夜光貝"が染め描かれた紅型帯地です。

"サバニ"とは琉球漁民が使っていた帆舟のこと..、その帆舟と沖縄の夜光貝、そして、その間に"波"が描かれている。
"琉球の海民"を暗示しているかのようであり、紅型にはあまり見掛けない、どこか寓話的な空気が感じられます。

この帯地は、ほぼ白色に近い経縞の節が織り込まれた紬地に染められているんですが、この白い紬素材は、"海"を想わせる絵と顔料の彩りにとてもよく馴染んでします。
薄物のための帯地でも、素材でもないのですが..、この城間栄順の"サバニ"の紅型が染められることで、単衣を想わせる、どこか澄んだ印象を伝えています。

この度の"きものと帯のあわせ"は、単衣時季の装いをテーマとさせて頂いたんですが、"単衣"と言う時季を視点としたお話とは別に、その"あわせのConcept"を解いてみると..、絣織の着物と染め帯の特別な"着物美的感性"が"きものと帯のあわせ"にある様に思います。

"街着"ではない..、確かに、絣や縞、織物、染め帯では、一般的な着物の格式を求められないけれども..、着物を着る方の"品格"だったり、"センス"だったり、"インテリジェンス"などは、着物や帯の類別や格式によって伝わる訳ではないんです。

真栄城興茂の藍の美絣も、城間栄順の"海の民"を暗示したかのような紅型も、伝統工芸に止まる以上の存在感が感じられるし、印象が伝わってくるんです。
沖縄の織物と染物を"揃いあわせ"たと言うことではなくて、制作者..、染織家の美意識が、琉球染織と言う枠を超えて、着物や帯という作品に込められているんです。

お単衣の時季の"きものと帯のあわせ"です。
この時季特有の陽光や空気が、この藍の美絣にも、サバニの紅型にも、とてもよく馴染んでくれます。
そして、どこに来て行くか、いつ着るのか..、と言うお話以上に、着物に対する、また、美術や工芸に対する想いを伝えてくれる"あわせ"になると思います。