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御草履のお話から..

名物裂笹蔓文花緒草履御草履の業者さんが廃業すると言うお話から、少々仄暗いお話..

弊店が取り扱っている御草履は、帯締や半襟などをも扱う和装問屋さんから仕入れたお品ではありません。
お草履/履物専門の業者が手を掛けて弊店独自の御草履を誂えてくれています。

和装問屋さんが扱う草履なんですが...、お商売上の都合では、こうした問屋さんから仕入れて売ると言うのが手っ取り早いんですが、どうも「もの」と言う点で"加工"や"つくり"に納得できなかったんです。
上質の御草履だけを扱うお履物屋専門店さんの仕事を請けている業者さんのお品は"もの"や"お値段"が随分違うため、弊店はお草履/履物専門の業者さんにお願いをして参りました。

ただ、昨年の暮れなんですが突然ずっとお願いをして来た業者さんが廃業する..、と言うことを聞かされました。ですから、これまで誂えてきた御草履や花緒をつくってくれる業者さんがなくなる訳です。

廃業するその業者さんは、同じ仕事をしている業者さんを紹介してくれたのですが..、この業者さんとは新規のお取り引きと言うことになる訳です。
すると御草履を誂えるに必要な原材料が、ここ数年値上がりしていて、これまで扱っていたお値段では到底扱えない状況となりました。
弊店は、それまでの業者さんに無理を言っていた訳ではないのですが、「昔からお付き合いは、それ相当で..」納まっていたんですね。

しかし、これからは、仕方がないことです。紹介を受けた業者さん以外は、これまで扱っていたお品と同じ程度の仕事/加工が期待できなかったんです。

そこで、今年から新しく誂えた御草履からお値段を上げることになったんですが...、
この3月に、突然、以前扱っていた業者の社員さんがお店に顔を出してくれて、以前扱っていたお代金で仕事を受けてくれるお話になったんです。

彼は、草履を型から誂える注文も受けてくれれば、花緒の誂えも受けてくれます。また、草履の裏底の交換や花緒の前坪の取替..、もちろん、花緒の"すげ"も受けてくれるんです。


花緒をすげていますこうしたお話をすると、しばしば、制作者のところへ直接注文をすれば良いのでは?と言うお話を聞きます。
御草履だけではなくて、お着物や帯地を制作している"元"で仕入れや買うと言うお話に繋がります。

これは"質の良いもの"を扱うのであれば"止めた"方が良いお話なんです。

職人と呼ばれるひと達の中でも"腕の良い"とされる職人の多くは、対話が下手な場合が多いんです。
職人は"もの"を仕事の対象としている訳で、"ひと"を相手にして仕事をしている場合が少なく、制作する"もの"の総合的な感覚(=センスです)に欠けているたりもするものです。

要するに、御草履の場合、花緒をつくる職人は花緒を如何に注文通りにつくるかを仕事としているだけで、どんな草履/下駄の台にすげられ、どんな履物となるかまで考えていない場合が殆どです。

ですから、小売専門店が直接"腕の良い職人"と話しても意志疎通が巧く行かない場合があるんです。これは、もちろん、草履や花緒職人だけではなくて、お着物や帯の制作に携わる職人にも当て嵌まります。ですから、専門の業者さんを通じて意志意向を伝えるのです。


ところで、そもそも「これまで扱いのあった業者さん」が廃業/辞めると言うお話からお話をはじめた訳です。
これが、どうして辞めるに至ったのかと言うと、早い話「不況で売れなくなった」からです。
どの街にもあった高級履物屋さんがなくなって販売販路の先細りが何年も続いて来たのです。
もちろん、こうした業者さんが辞める話は、履物業界だけではなくて、着物/帯の業界では日常茶飯事となっています。

呉服屋さんとしては、履物屋さんと着物の問屋さんのどちらが大切かと問題ではないのです。
販売と言う点で考えれば、呉服屋さんとしては着物の問屋さんと言う話になるかもしれませんが、履物がなくなれば着物は着られません。
着物を着て靴を履くというお話は成り立たないし、腕の良い職人の手に掛かったお着物や帯をお召しになる時に、ただ草履であればいいと言う草履を選ばなくてならないと言うのも悲しい話です。

着物は、そもそも、その型はどんな着物であっても同じ型です。
あえて上質ななものを求めるのは、同じ型...、反物であれば長さ3丈3尺.巾1尺の中にこめられた"もの"="仕事"が違うから..、その色や質感に惹かれるからだと思います。

ただ、"用を足せばいい"ものではない筈です。

御草履も、着物をお召しになる際の大切な装いのひとつです。

先ほど、業者さんが辞める話は日常茶飯事と書きましたが、履物の制作に関わる職人さん、お着物や帯の制作に関わる職人さんは減って来ています。
製品そのものを制作する現場や職人さんだけではなくて、必要な道具や原材料を扱う職人さんレベルから減って来ているんです。道具や原材料がなくては"もの"そのものをつくることさえも出来なくなるんです。

細かい要望を「とりあえずやってみます」と無愛想な返事でこなしてくれる職人仕事があるから、他とは違う空気を感じさせてくれるお品が出来上がるのです。
長いお付き合いだから呼吸が分かるし、頼みやすい..、安心したお品を扱えるのです。

業者さんがひとつ廃業したり、職人さんがひとり辞めたりすると、その代わりをさがすことが難しい時代に来ているんです。


*草履に花緒をすげながら"彼"が言っていたんですが、花緒をすげる為に必要な"専用の金槌"がいま手に入らないとのことです。そもそも、"専用の金槌"が製造されていたかどうかは分からないのですが、彼が使っている金槌は、鍛冶屋さんで加工して貰ったものだそうですが、その鍛冶屋さんも..、もう街で見掛けなくなりましたね。

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