釜我敏子 作
型絵染め九寸名古屋帯：すいかずら

 

制作者:釜我敏子氏は、型絵染めの染織工芸作家。
この染色家の作品には、いつも植物が染め描かれています。そこに染め描かれているのは、路傍に咲く草花ばかりです。その花一輪だけでは野の中に埋もれてしまいそうな草花を、自然の中でスケッチブックに描き留め、デザインを重ねる事で流麗な美しさを湧き上がらせるのです。

作品に染め描かれる草花の図案は、まるで、ある種の植物絵画の様な細密な精巧性を伝えています。もちろん、染色家の心を通じて描かれた図案である以上、写実的図案ではありませんが、描かれた「花ひとつ」に濃厚な印象を想わせる図案でもありません。心に映る草花の光景、伝わって来る草花の生命感が、色彩とデザインの調和を奏でながら図案が描かれて行くかの様です。
作品は、染色家の美しい感性によってデザインされた草花の図案に染め描き尽くされています。それは、まるで染色家が眼にしたその時の心象風景が、そのまま作品表現されているかの抒情が伝って来るのを憶えます。

こちらに掲載をさせて頂いている作品に染め描かれている花は「すいずら(忍冬)」。
この「すいかずら」の型紙が使われた最初の作品は、2014年に着物として制作されています。それ程、古い型紙(作品)ではありません。むしろ、染色家釜我敏子氏特有の美的な感性がとても綺麗なかたちで表現されている作品の様に思われます。

染色家の作品の「花」は、何時もひとつだけではなくて、「花」が繋がることで作品のイメージが構成されています。
この作品の「花(すかずら)」ひとつひとつを見ていると、よく似ているけれども、そのかたちは違います。よく似ているけれども、違うかたちの「花」が繋がって行く事、それぞれが持っている僅かな美しさを繋げて行くことで、作品(すかずら)の美しさが見事なまでに表現されています。

型絵で染め描かれた作品ですが、絵画性があまり強く伝わって来ません。草花のデザインと色彩が調和を奏でながら流れて行く様は、小さく透き通った音がそれぞれ響き渡ることで美しいメロディとなって行く様な、音楽的な空気感を想わせるのではないでしょうか？
心豊かな染色家が制作した、楚々として美しい染色作品です。

 

＝経歴＝

 

1970年		第5回西部伝統工芸展初出品 以降連続入選
1973年		日本伝統工芸会正会員松原4兄弟に型絵染めの基礎と藍染めを学ぶ
1975年		第12回日本伝統工芸染織展初出品 以降25回入選　受賞5回 鑑審査委員4回
1976年		第23回日本伝統工芸展初出品 以降30回入選
1979年		日本工芸会正会員に認定
1994年		東京国立博物館主催「現代型絵染め展」出品 銀座和光に於いて個展開催(その他各地で個展開催)
2005年		福岡市文化賞受賞 春日市民文化賞受賞
2007年		第54回日本伝統工芸展初出品に於いて日本工芸会奨励賞受賞 大英博物館(英国)主催「わざの美・伝統工芸の50年」に出品
2009年		九州国立博物館・朝日新聞主催 「工芸のいま・伝統と創造－九州・沖縄の作家たち」に出品
2011年		福岡アジア美術館に於いて 四季の花を愛でて45年　創作型絵染「釜我敏子の世界」を開催
		現在　日本工芸会正会員 釜我染塾主宰