工芸帯地 洛風林

工芸帯地洛風林

◆工芸帯地-洛風林
 ・ 研鑽された美意識が生み出した西陣織
洛風林は、1952年、初代堀江武氏が「洛風林」を屋号として創業したことに始まります。
洛風林が、それまでの伝統的なる西陣織に没することなく、斬新とも言える作品制作に至ったのは、文化人、芸術家らのとの交流、古今東西の時代文化を超えた美術工芸への傾倒、そして、美しいと閃き感じた美意識をものづくりに昇華させて来たことが理由に挙げられます。

◆洛風林の美意識の源流..
 ・ 創業以前、1923年に西陣織帯地商三宅清次郞商店(特作部)に就労した際、織物に関する碩学と卓絶した審美眼をもっていた三宅清次郞氏より仕事を学んだことが、それ以降の帯地制作に色濃く影響を及ぼした様です。
 ・ 三宅氏没後、堀江氏は「洛風林」を設立し、海外渡航の珍しい時代にもかかわらず、中南米、アフリカ、台湾などを幾度も巡り、それは、海外の美術工芸品から、宗教美術品、民芸品に至るまであらゆる異文化の産物に直接触れる機会となりました。その経験は、それまでの西陣や着物業界にはない、斬新で、革新的な美意識や美的な感性が培われ、洛風林の帯地制作に繋がって行ったのです。
 ・ 創業当時(1952年)、堀江氏は「民芸運動」と出会い、陶芸家河井寛次郞(文化勲章辞退)、富本憲吉(人間国宝)、棟方志功(人間国宝)、白洲正子(随筆家)らと親交を持ったことにより、西陣織を超えた美術的な造詣や世界観が深められました。染織研究者であった京都国立博物館名誉館員の切畑健氏は「美と工芸」(京都書院発刊)の中で「世界の美術でもことにプリミティブな性格のものを愛し、その中に美を求め、帯に造詣する。やはり、民芸の本質にせまる取り組みとそれはひとつである」と評しています。
屋号となった「洛風林」は、三宅清次郎氏が指導をした染織研修グループに冠されていた名称に由来しています。
◆洛風林同人..
 ・ 堀江武氏が設立した洛風林は、帯地制作に必要な機(はた)を持たず、その制作のすべてを西陣の機屋に委託するという形態を採っています。
堀江武氏の制作理念の元に集まっていた西陣織の機屋は、それぞれ固有の染織技法をもっていた為に、様々な種類の作品制作を実現することが出来たのです。堀江武氏が催した展覧会「洛風林展」の第十回記念展(1961年)では作品制作に関わった機屋を同人と捉え、その展覧図録には堀江氏の言葉と共にその名前が列記されています。
-「眞実に美しいものは常に新しい」これは私たち洛風林の信条である。
私たちはたえず前進する意気のもとに、古典と伝統を尊びこれを追究し、新しく美しいものを創り出したいと念願している。-
(1961年5月若葉かほる日  洛風林主人堀江武)
八木虎三/稲波貞三/鷲猪越三五郎/宮島憲吉/清水治之助/酒井栄一/宮島勇/今井与一郎/南隆一郎/勝山実夫/高尾弘/高尾清二/山城亀之助/浅田光三/藤井善造/西垣和子/近藤大造
(順序不同)

洛風林

洛風林同人:八木生次制作
九寸名古屋帯:花の宴
(意匠:洛風林)

洛風林が、作品の意匠デザインを興し、作品制作を機屋が担うと言う関係ではなくて、洛風林が同人たる機屋との密な関係の中で意匠デザインが生まれ、機屋がその作品を制作すると言う形態なのです。
洛風林の帯地と洛風林同人の機屋が独自に制作する帯地の趣が近く感じられることがあるのはその様な形態が長く続いていた為なのかもしれません。
 第十回記念展の際に発刊された展覧図録が1961年から、およそ20年後、再び洛風林の作品を纏めた図録「洛風林百選」が発刊され、その中にも同人名が列記されています。
洛風林にとって、洛風林同人は理想や美意識を共に美意識や理想を実現する為に、欠くことに出来ない存在だったのです。
鷲猪越三五郎/勝山実夫/勝山嘉夫/高尾弘/牛窪信子/山代善三/八木生次/遠藤政治郎/北村武資/木村登久次/三上嘉義/南昭行/南貞行/宮島 勇/茂木功/清水治之助/清水茂勇/広瀬健二                        (順序不同)
西陣織図案作家.徳田義三氏も、この時代に洛風林と深い交流があった様です。徳田義三作品集(1981年発刊)には、今なお洛風林で制作されている帯地の草稿図案が掲載されています。

洛風林百選洛風林百選
(京都書院刊)

◆継承された洛風林の系譜

 ・ 初代堀江武氏から洛風林の事業を継承した2代目堀江徹雄氏もまた、東西ヨーロッパ、北欧、アジアなどを取材旅行に赴きます。そこで収集した美術工芸品や染織品は染織資料として、自身が設立した染織資料館「織園都」に収蔵されています。時代、言語、文化、宗教の垣根を越えて収集された膨大な染織資料は、洛風林の知性の源泉となって作品制作に活かされて来たのです。
洛風林が制作する帯地が、西陣織でありながらも、比類の無い存在感を伝えているのは、常に新しく、そして、美しい英知を求めているからなのかもしれません。
現在、洛風林は、3代目当主堀江麗子氏によって、初代、先代が培って来た理念を基に運営されていて、初代堀江武氏が作品制作に携わる機屋を洛風林同人として捉えて以来の形態も、現在も尚続いています。
初代より洛風林同人であった勝山織物の5代目勝山健史氏が手掛ける絹織物作品が、洛風林を通じて発表をされているのは、「真実に美しいものは常に新しい」と言う矜恃を共有しているからなのかもしれません。
現在の当主堀江麗子氏は、初代、先代の理念継承による作品制作に加えて、現代女性のライフスタイルに馴染む作品制作にも臨んでいます。女性の視点による現代女性のための帯や着物の制作は、女性当主堀江麗子氏ならではアイデンティティなのかもしれません。

洛風林

三代目当主:堀江麗子氏

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