駒井和子 制作
型絵染め帯『弱法師』

駒井和子さんは、添田敏子(故人)さんに師事した染色家です。
モチーフ表現や色彩イメージなどからは添田敏子さんの影響が感じられます。

この作品のタイトルになっている『弱法師(よろぼうし)』は、そもそも、能楽の曲目が由来です。
染め描かれている「花」は、下村観山作画「弱法師図」に描かれた「梅」をモチーフにされているようです。能楽「弱法師」は悲哀と諦観が入り混じった曲目ですが、駒井和子さんが染め描く作品には躍動的な彩りと明るさに満ちています。それは、名家に生まれた主人公(弱法師)が、自身が陥った不幸を嘆きながらも、梅の花びらの薫りに惹かれる優雅な姿を暗示しているのかもしれません。曇ない澄んだ心から零れ落ちた煌めきが、作品にあざやかな彩りを添えているかのように思われてきます。
見ていると微笑みさえも湧き上がって来そうです。
幼少期より能楽に親しみ、後年、能楽師 岡久広氏に師事した駒井和子さんのならでは文芸的な作品表現が感じられます。

光と彩りに満ちた印象的な作品性は、見ているだけで、どこかアーティスティックな雰囲気を伝えています。