手描き友禅 塩瀬.染め帯
紅葉散らし模様

着物の楽しさのひとつに「季節を装う」と言う印象があるようです。
季節をテーマとした着物や帯は、数多く存在するかと思います。四季以外にも二十四節季と称される、季節を更に細かく表現した季節の捉え方もあります。日本には季節の移り変わりに敏感に反応する習慣があるのかも知れませんね。ですから、着物をまとう際に、特に、そうした季節感にも敏感になるのではないでしょうか？

塩瀬に真糊糸目友禅で「紅葉」を染め描いています。
もしかしたら「よくあるテーマ・構図」の染め帯かもしれません。
そもそも「よくあるテーマ・構図」の友禅などは少なくはないかもしれませんが．．．、けれども、具体的に「その着物」「その帯」を眼にすると、それぞれのつくり手の趣向が反映していて、「よくあるテーマ・構図」であったりしていても、印象が全く違うと言うことも少なくはない筈です。

この染帯は、「雅やかな秋」を想っているのだと思います。
地色には、濁りのないベージュ系の色が見事に染められています。このベージュ系色そのものは、特に、「秋」を印象付けている訳ではないかもしれませんが、ついつい、この友禅を眼にしていると「秋」を感じてしまう筈です。
この友禅．．．。「紅葉」と「網代」、この描かれた「紅葉」から連想してしまうのでしょうか？
網代は竹垣が意匠化されたものの様にも映ります。
そして、この描かれた「紅葉」。綺麗な彩色。彩色バランスが、あまりに見事であるためなのか、雅やかな「秋」を想ってしまうのかもしれません。
色彩、箔使いが雅な空気を想わせてくれています。また、散りばめられた「紅葉」そのものの大小。そして、それぞれの彩色が相俟って、「秋」。それも、柔らかく、優雅で、品位ある「秋」を想わせてくれるのです。

「よくあるテーマ・構図」かもしれません。「秋」を表現しようと「紅葉」を描く．．、しかし、この「紅葉」が伝える印象は、ちょっと見掛ける事のない「優雅な秋」であるかの様です。