手織：綿薩摩 『百六十亀甲絣』
制作：東郷織物

亀甲絣は、土地に伝承されて来た織物にとっては珍しい絣模様ではありませんが、染織工芸作家の作品では見掛けることはありません。それは、絣模様を制作するためには、絣糸をつくる極めて専門性の高い職人の技術が必要なためです。そして、特に、より細密な亀甲絣を綺麗に織り出すことは、その織物の品質や価値を示す証のように捉えられています。

東郷織物が制作する綿薩摩は、特に、細密な絣模様が織り出された手織綿薩摩は、格別な存在感を伝えています。絹のような繊細さと洗練された優美さを兼ね備えた雰囲気は、木綿であることを忘れさせてしまいそうであり、趣深い美しさに満ちた織物です。

こちらに掲載をさせて頂きました綿薩摩は、目が眩みそうなくらい細密な亀甲絣が織り出されています。この織物に掛けられた仕事は、すべて専門職人の手仕事です。そして、精巧な絣模様に冷たい感じを憶えないのは、職人の感覚が絣や素材感に残っているからなのかもしれません。延々と同じデザインが続く織物であるにも関わらず、見飽きることはなく、むしろ、織の表情ようなものが無意識の裡に感じられて来ます。
こうした表情あるお着物は、無地感覚でありながらも、奥行きと温もりを伝え、同じ手仕事でつくられた帯に馴染んでくれます。

尚、手織の綿薩摩は、木綿にも関わらず軽く、しなやかで、薄い素材感です。本場大島紬の制作手法から生まれた織物ですが、大島紬のような絹の艶感はありません。色合いも少しだけ沈み込んだ感じを残しています。素晴らしいほど綺麗な織物です。