南部菱刺し九寸名古屋帯

『南部菱刺し』は、江戸時代、八戸藩(現在の青森県の太平洋側)で始まった染織です。
そもそも、麻布に細かく刺し縫いをする刺し子は、寒冷地であった東北地方では、麻布の補強と保温とため施された工夫の産物でした。

『南部菱刺し』の特徴は、麻布の経糸の目に対して正確に針を刺して行き、横長の連なる菱模様をつくって行くことです。藍色に染められた麻布に白木綿の糸という素朴な染織は、もしかすると最も野趣に満ちた取り合わせなのかもしれません。
時代が下り、布の補強と保温という実用から生まれた刺し子は、何時しか、菱型模様の花を描き出します。花が開いた刺し子からは、柔らかい空気と温もりが伝わって来るのを感じます。
花と温もりに焦がれたみちのくに生きた人たち想いが、こうした刺し子を伝承させて来たのように思います。

こちらに掲載をさせて頂いた『南部菱刺し』は、細密に菱刺しが並べられた花模様が、民芸的なイメージに留まらず、少しだけ雅やかな感じを想わせます。普段着感覚に、綺麗な薫りが少しだけ漂っています。